ダイエットの極意。本気でやせたいなら、実際にやせている人間に学べ!【適菜収】
【新連載】厭世的生き方のすすめ! 第5回
時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、書籍化(『日本崩壊 百の兆候』)された。新連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。今回のターゲットは兵庫県在住のK君。タンポポの綿毛のように吹けば飛んでいくような人間になりたいと願う適菜氏の連載第5回。

■存在の耐えられない軽さ
もう10年以上連絡をとっていないが、K君という友人がいた。初めて会ったのは20歳くらいの頃。ベトナムのホーチミン市にある安宿で知り合い、夕方になると川沿いにある屋台にビアホイを飲みに行った。今のベトナムにビアホイがあるのか知らないが、あれは何だったのか? 灯油を入れるような巨大なポリタンクに入っていて、クラッシュアイスを入れたビールジョッキにドボドボと注ぐ。ビールを薄くしたような味で炭酸が抜けており(最初から炭酸は入っていないのかもしれない)、美味しいものではないが、暑いので毎日がぶがぶ飲んでいた。
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K君はすごく痩せていた。そして存在感がない。日本に帰ってきてから、東京や大阪で何回か会ったが、あるとき、なんばグランド花月の前で待ち合わせをした。約束の時間になってもK君は来ない。場所は間違っていないし、変だなと思っていると、しばらくして、K君が私の真横にずっと立っていたことに気が付いた。「存在感がゼロだから気づかなかったよ」と言ったら「ひどいなあ」と怒っていたが。
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タンポポの綿毛のように吹けば飛んでいくような人間、片手でひねりつぶすことができるようなひ弱な人間。そういう人間に私はなりたい。
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K君は兵庫の人間だが、奈良の桜井市に住んでいたことがあった。あるとき、桜井のマンションに泊まらせてもらった。しかし、暑くて眠ることができない。床下暖房とエアコンの両方がついている。私が「床下暖房を消してくれ」と頼むと、「消したら寒くて眠れない」と言う。K君は皮下脂肪がないので一年中震えているのだろう。ハムスターみたいに。
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翌朝、K君は出社のため大阪方面に向かった。私も一緒に部屋を出た。某駅のホームで「ちょっとここで待っていて」と言って、改札を出てしばらくして戻ってきた。有名な和菓子屋の大福を買ってきてくれた。すごくいいやつ。
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今はK君から電話がかかってくることもない。私がひどいことばかり言うので避けられたか。あまりにも存在感がないので、私もすっかり忘れていた。記憶から消えるというのもすごい。建物に侵入しても警報機すら鳴らないかもしれない。
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虚勢を張る人がいる。自分を実態より大きく見せようとする。そして弱い自分を隠そうとする。動物も同じで、体を大きく見せかけて、捕食者から身を守ろうとする。しかし、自分を小さく見せるほうが難しい。縮こまっても、大きいやつは小さく見えない。しかし、精神的な面において小さく見せることは可能だ。たとえば、少額の会計のときでも割り勘にする。「引き算の美学」という言葉があるなら「割り算の美学」があってもいい。それを繰り返せば「あいつは細かいやつだ」という評価が定着する。
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ダイエットにおいて、毎日体重をはかるのは必要だが、わずかな増減で一喜一憂するのは無駄。体内の水分や老廃物により体重は変わる。だから、一喜一憂してみるのもいい。小さなことでくよくよすることで、精神面から小型化していくわけだ。
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私は一日一回は、意識的にくよくよするようになった。それにより厭世気分も高まった。
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